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【新型TCR】フレームセット組み立てから見る最新ロードバイク2024年8月10日

こんにちは。今治店スタッフの川村です。
今回はいつもの走行インプレッションや製品紹介とは違う視点で新型TCRをみていただきます。

登場して頂くのはお客様よりご注文を承りましたTCR ADVANCED PROのフレームセットです。
こちらの組み立て作業の様子と合わせて、最新のロードバイク事情も交えつつ新型TCRの特徴をご紹介しますよ。
さあ、組み立てをはじめようか。

フレームセットの組み立てにあたり、肝心な作業の1つ、フロントフォークコラムのカット作業からはじめます。

完成車の場合は工場の組み立てラインにのる段階で、フォークを装着するフレームサイズごとにコラムの長さが予めカットされています。今回のようなフレームセットの場合は、ご覧の通り付属のコラムスペーサーを全て積み重ねても余りあるほど、コラムは長い状態で出荷されてきます。

ここで早速ですが、新型TCRに装備されているフロントフォークについて復習です。

シリーズのセカンドグレードに該当するTCR ADVANCED PROですが、この第10世代からは最上位グレードADVANCED SLに使用するものと共通のフロントフォークを採用しています。つまりはアップグレードされたということですね。完成車の状態になると見た目では分かりにくいのですが、乗ってみるとその差をはっきり体感できます。※第9世代TCRはADVANCEDグレードのカーボン素材にオーバードライブ2規格を採用していました。

素材には弊社ADVANCED SL専用カーボンコンポジットを使用して、ハンドル剛性を飛躍的に向上する独自規格「オーバードライブ2(略してOD2)」を採用しています。また、フロントフォークコラムの断面形状も変更されています。

◇第9世代TCR ADVANCED PRO

◇第10世代TCR ADVANCED PRO
第9世代TCRまでは従来通りの丸い断面形状を採用していましたが、第10世代ではD型に近い断面形状に変更されています。この形を採用したことにより、OD2規格特有の大口径フォークコラムは継承しつつ、ハンドル周りのケーブル類内装化に対応しています。※ヘッドパーツ上部のベアリングサイズも拡大しています。

ステム下に積むコラムスペーサーは前後分割式で整備性への配慮がみてとれます。現在さまざまなフレームメーカーでケーブル内装化が進んでいますが、新型TCRはこのあたりの工夫が粋だなと感じております。

ちなみに一つ下のグレードにあたるTCR ADVANCEDシリーズでは、第10世代においても従来の丸い断面形状のフォークコラムが採用されています。

こちらはOD2規格ほどコラム径が太くないため、断面形状を変更することなく内装化に対応したのでしょう。

それでは作業の方に戻りましょう。カットする位置には予めマーキングを施して作業します。

カーボンコンポジットを切断する場合はカーボン用ソーを使用します。綺麗に仕上げるには切り終わり直前に若干のコツがあります。

切断後は紙ヤスリで断面を丁寧に仕上げていきます。
これも大切な作業のひとつですね。

これにてコラムのカット作業は完了です。

ここもポイント。カーボンコラム用プレッシャーアンカーの締め付けはステム挿入後に行います。

コラムの仕上げが終わりましたら油圧式ディスクブレーキのホースを通していきます。新型TCRのフロントブレーキ側ホースはフォークコラム下部より内部を通過して、フォーク下側のブレーキ台座手前で外に出てきます。

◇コラム下部

◇フロントフォーク下部
他ブランドの最新ディスクロードも、見る限り多くのフレームにこの方式が多く採用されていますね。フォーク下側からコラム側に通すのが作業におけるポイントです。

続いてリアブレーキ側のホースを通します。

◇ヘッドチューブ上部

◇フレーム後方部分
リアブレーキのホースはヘッドチューブ、ダウンチューブを経由してリアステイを通り、ブレーキキャリパーの手前で外に出てきます。こちらはリア側から通すのが作業におけるポイントです。

フロント、リアそれぞれのホースはヘッドチューブからコラムスペーサー内側を通り、ステム下の溝を経由してハンドルにつながります。ステム部分を完全内装にしないところにも整備性への配慮が伺えます。数年前にフル内装化が採用されはじめた頃はステム内部に通したり、専用のカバーで覆ったりする方式もありましたが、正直に申し上げて整備性があまりよろしくない印象でした。TCRよりも先行してケーブル内装化を進めてきたDEFYシリーズやPROPELシリーズがその例ですね。新型TCRはそこで得た経験をもとに設計されていると言ってよいでしょう。

フレームからハンドル周りに至るまでケーブル類が内装されたこの新型TCRですが、やはり個人的には電動式変速コンポーネントとの親和性が優れていると感じます。それはなぜかと申し上げますと…

こちらの写真は従来のワイヤー引き(機械式)変速コンポーネントを採用する完成車「TCR ADVANCED 2」のハンドル周りです。

このように前後油圧式ディスクブレーキのホースに加えて、変速機用シフトケーブルも合わせた計4本。その全てをハンドルからステム下、フレームに収納する必要があるのですが、正直に申し上げて4本スッキリ通すのはスペース的に大変なんですよね。写真のADVANCEDグレードでしたらまだしも、大口径のOD2フォークコラムを採用するADVANCED SLフォークではこの作業がけっこう大変。え、なぜ知っているかですって?私も一度作業してみたからです。これを 本社工場の組み立てライン上で作業するスタッフの方々を尊敬します。ぜひそのお手並みを拝見したいところですね。

と、まあそんな経験からの本音を交えた事情がございまして。

電動式変速コンポーネントは変速シフトケーブル自体が必要ない為、結果としてフレームやハンドル周りの狭いスペースを利用して内装化がしやすくなります。

また納車後のフィッティングなどで暫定的にハンドル位置の下げて乗る場合。

この写真のように第9世代TCRまでは余ったケーブル類を「外」に逃がすことも出来たのですが、新型TCRでは構造上その辺りが若干困難になりました。とくにブレーキについてリアはともかくフロントはホースを余らせるスペースがほぼ無いため、フォークコラムのカットに加えてホース長の再調整が必要となります。機械式変速ならシフトケーブルの長さ調整も必須です。そのため組立の段階である程度のセッティングを決めておきたいのが本音です。外装式でも最終的にケーブル類の長さは調整しますけどね。

そもそも完成車のフォークコラムはちょっと長いと個人的に感じております。最新のディスクロード(とくに新型TCRのような軽量且つ高剛性レーシングモデル)はフレーム剛性自体が非常に高くなっているせいか、サドルの高さに対してハンドル位置があまり高すぎる場合、車体の挙動とハンドリングが不安定になる傾向があります。

その反面ある程度ハンドル位置を下げて体幹を自然に意識できるポジションを出して、スムーズにペダリングができるとビシッ!と安定した走りになる印象があります。このあたり思い当たる方はぜひお試しください。

ケーブル内装も含めて新しい要素に対応していくのが現場の役割。構造が多少変わったとしても基本的な作業自体は一緒です。

例えば油圧式ディスクブレーキのブリーディング作業も数年前にディスクロードが登場した頃は、「ブリーディング作業か〜」「ケーブルの方が楽だなぁ」なんて声もありましたが、最近はごく一般的なメンテナンス作業の1つという感覚になりました。(少なくともショップに勤務する人間としては)

ちょっとお話が脱線しましたが作業を進めましょう。フロントフォークをフレーム本体に挿入します。

◇ヘッドパーツ

ヘッドパーツが収まる部分には薄くグリスを塗っておきます。

続いてブレーキキャリパーに油圧ブレーキホースを接続します。

◇インサート(銀色)とオリーブ(金色)

指定のインサートとオリーブを付けてブレーキキャリパーに接続します。

続いてハンドルを組み付けていきます。

お選びいただいたハンドルバーは新型TCRと合わせて登場したCONTACT SLRドロップハンドルの新バージョンです。

ロードレース界隈で主流となったブラケットポジションでのエアロフォームに対応する11°のフレア形状。軽量且つ剛性に優れたカーボン製ドロップハンドルです。

このハンドルが実はなかなか人気でして、アルミ製を含めてたくさんのご注文を頂いています。

ブレーキホースをドロップハンドルに通していきます。


ステム下の溝を通ったブレーキホースは、ハンドルクランプ部分からハンドルの内側を経てSTIレバーにつながります。

レバーやハンドルの組付け位置を確認後、ホースを適切な長さにカットしてインサートとオリーブを付けたのちSTIレバーに接続します。

ハンドルの取り回しや、後ほどの整備性を考慮しつつホースの長さを決めるのは経験からくる感覚といったところです。

続いて油圧式ディスクブレーキのブリーディング作業に入ります。

専用シリンジを使いキャリパー側からブレーキフルードを送りこみ、STIレバーのブリーディングポートに取り付けた専用じょうごにオイルを貯めます。

STIレバー側とキャリパー側、それぞれユニット内部に残っている気泡を抜く「エア抜き」作業をします。ちなみに油圧式ディスクブレーキのブリーディングは、ワイヤー式ブレーキだとケーブル交換に該当する作業になりますが、そちらと比べて多少時間を要するため作業工賃が若干高くなります。エア抜きができましたら油圧式ディスクブレーキの作業は概ね完了です。

シマノの油圧式ディスクブレーキには専用ミネラルオイルが採用されております。他メーカーで採用するDOTオイルに比べて塗装へのダメージが少ない点、吸湿性の低さなどが特徴です。使用環境によりますが、おおよそ2年から3年以内で新しいフルードに交換するようにしましょう。あまりオイルが劣化するとブレーキ性能や機能に影響が生じます。

さあここからは変速コンポーネントの組付け作業に入ります。今回お選び頂いたコンポーネントはシマノアルテグラDi2の最新モデルです。

こちらはシマノDi2に使用する専用リチウムイオンバッテリー。GIANTのロードバイクはシートピラーにこのバッテリーを内装します。フレームメーカーによってダウンチューブなどに収納する場合もありますね。そういえば初代シマノDi2は四角いバッテリーをダウンチューブやチェーンステイに外装していましたね。このあたりも随分と仕様が変わったものです。

バッテリーには接続ポートは3つあります。
ここから各コンポ―ネントにエレクトリックケーブルで接続します。

◇バッテリー接続部分

◇リアディレイラー

◇フロントディレイラー

エレクトリックケーブルの内装ルートはこんな感じ。
青色の線がリアディレイラー、赤色の線がフロントディレイラーのエレクトリックケーブルです。

新型シマノDi2ではリアディレイラーとフロントディレイラー、バッテリーの3点が有線接続になります。

リアディレイラー本体には充電用ポートと通信モジュール、制御用CPUが搭載されており、同じく通信機能を備えたSTIレバーには無線接続します。STIレバー自体の電源はボタン電池を採用しています。

◇アルテグラとデュラエースDi2はボタン電池1つ

◇シマノ105Di2はボタン電池2つ

そのため、STIレバーにつながるのはブレーキのホースのみというわけです。これがケーブル内装式フレームに相性が良い理由です。※ワイヤー引きブレーキレバーの場合は有線接続になります。

STIレバーによる変速操作はまずリアディレイラーで受信します。

フロントディレイラーの操作はリアディレイラーからエレクトリックケーブルを介して有線で通信します。この仕組みを採用する電動式変速コンポーネントを「セミワイヤレス」タイプと呼んでいます。

ちなみにスラムなどが採用する「ワイヤレス」タイプの電動式変速コンポーネント。

写真はスラムのライバルe-TAP

こちらはエレクトリックケーブルによる接続も無く、リアディレイラーとフロントディレイラーにそれぞれバッテリーを搭載、それぞれ独立した状態でフレームに組み付けます。なお、変速レバーの電源は現行シマノDi2と同様にボタン電池です。

さて、組み立て作業の方に戻りまして。

エレクトリックケーブルを通し終えたらボトムブラケットを圧入します。

前後ディレイラー、クランクセットをフレームに組み付けます。

ブレーキローターとカセットスプロケットを組み付けたホイールを装着します。

ここでブレーキキャリパーの位置調整を行います。ディスクブレーキ搭載初期のロードバイクでは、ホイールの固定にクイックレリーズレバーを採用していたため、ホイール着脱でブレーキ位置調整がズレるなどの懸念点もありましが、のちにスルーアクスルへ移行したことにより運用性は格段に向上しています。初期ディスクロードで苦労したという方は、ぜひ最新のディスクロードにも触れて乗ってみてください。

ホイール自体も現代のディスクロードに合わせて変化を遂げております。

今回お選び頂いたホイールは新型TCRに合わせて登場した「SLR 0 DISCホイールセット」です。タイヤはCADEX RACE GCチューブレスレディーを装着します。

SLRホイールシリーズとして初のカーボン製エアロスポークを採用し、その乗り味から「ジェネリックCADEX」の異名をとる高性能ホイールです。

続いて変速機の調整作業に参りましょう。

フレームに取り付けたディレイラーにエレクトリックケーブルを接続します。

シマノ指定の長さに合わたチェーンを組み付けます。※さまざまなギア歯数やフレームに対応するため、チェーンはかなり長い状態で梱包されています。

基本的なディレイラー位置の調整を行います。ここまでが主に工具を使って行う作業ですね。

ここから先はリアディレイラーに搭載された機能を使用して、スマホやタブレットにダウンロードしたシマノE-TUBEアプリに接続。画面上で前後変速機の調整を行います。(あわせてリアディレイラーのH/Lボルトを工具で調整します)

これが従来のワイヤー引き機械式変速の場合。

この写真のようにケーブルアジャスターを回して調整を行い、シフトケーブルの初期伸び(馴染み)を出したらまた調整して…というアナログ作業の繰り返しで変速調整をするのですが。

電動式変速の場合は調整作業自体がとても電子的。そもそもシフトケーブル自体が無いため、ケーブルの長さを調整したり、グリスアップなどの処理をしたり、初期伸びを出してまた調整….という作業自体が必要ありません。わたし自身、往年の機械式変速機をメンテナンスしながら使い続けている身なので、この電動式変速機の作業をするたびに思わず感嘆の声が出てしまいます。

ディレイラーやバッテリー、STIレバーに搭載されるファームウェアのアップデートも行います。

このDi2用ファームウェアはときどき新バージョンが配信されるのですが、直近ではフロント変速操作に新モードが追加されました。

その名も「フロントシフトネクスト」

従来はシフトアップ、シフトダウンそれぞれ別のボタンを操作する必要がありましたが、STIレバーにこの新モードを設定すると1つの同じボタンでフロントインナーギア↔アウターギアの変速が可能となります。こういったバージョンアップによる新機能追加は、電子制御を使用する電動式変速コンポーネントならではの付加価値といってもよいでしょう。じつにカッコいい。

さて、あとはバーテープを巻いて、ボトルケージやペダルなどを取り付けて…


これにて完成です。
実にカッコ良くて速い1台に仕上がりました。(サドルは仮のもの)
お客様にはぜひこのバイクでガンガン走って頂きたいですね。

ということで、いつもと少し違う視点でご覧いただいた新型TCRのご紹介。いかがでしたでしょうか。フルモデルチェンジを重ねるごとに洗練されてきたTCRシリーズ。第10世代は細部に至るまでこだわりを持って作り込まれていることがわかります。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

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